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はじめに
超高齢社会を迎えたわが国では,認知症の人の急激な増加により,精神科病床における認知症の入院患者数も年々増加傾向にあり,2008年の5.2万人から,2026年には9.2万人になると推計されている1)。これら認知症の人の精神科入院,特に長期入院については社会的関心も大きく,2012年6月に厚生労働省から発表された「今後の認知症施策の方向性」2)では,認知症の人の精神科病院への長期入院を不適切と断定し,入院適応となる状態像を暴力,拒食,拒薬に限るべきだという意見が示された。精神科医療に携わるものとして素直に同意することはできないが,わが国の認知症対策の中で精神科病院の役割を明確に位置づける必要がある。
石川県立高松病院(以下,当院)は400床の精神科単科病院で,県の精神科医療の中核的病院として,あらゆる精神科ニーズに対応することを目標とし,精神科救急・急性期医療および認知症の専門医療に力を入れてきた。当院の認知症医療は歴史が古く,1972年に老人病棟100床を開設したのが始まりで,1992年からは400床8病棟のうち3病棟150床を高齢者専用病棟(以下,高齢者病棟)として運用している。
私たちは,認知症医療における精神科病院の果たすべき役割を,認知症の周辺症状BPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)に対する救急・急性期治療と考え,特に入院医療については短期・集中的に行うことを実践してきた3,4)。そして入院治療を短期間で終え,地域社会へ帰っていただくためには,表1に掲げた8点が重要であることを経験し,そのような観点から各職種がそれぞれの分野での技術向上に努めてきた。
一方,超高齢社会が進めば,認知症ばかりでなく,うつ病や幻覚妄想状態などの高齢精神障害者の増加も予想される。従って多くの精神科病院では,救急・急性期医療において高齢者対策が重要になると考えられる。
これら高齢精神障害者を既存の精神科病棟で従来どおり処遇すると,行動制限や薬物治療に起因する廃用症候群もあいまって,日常生活動作能力(以下,ADL)の低下した高齢患者の介護に手間がかかり,若い患者の看護に支障を来すといった問題が生じる。しかし高齢者の介護や身体合併症治療に対応できる認知症治療病棟(以下,認知症病棟)へは,認知症の人しか入院させることができない。また精神症状がコントロールされていても,身体介護や予防的な介護保険サービスの対象となる高齢精神障害者は少なくなく,精神科病院が従来持つ精神障害者を対象とした地域ネットワークとは別の,介護保険関連のネットワークを構築する必要がある。
私たちはこれら高齢精神障害者のニーズにも対応するため,2009年に認知症病棟を精神科急性期治療病棟(以下,急性期病棟)へ転用した5,6)。今回はその変革期に急性期病棟の師長として取り組んだことを述べてみたい。
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