連載 おとなが読む絵本――ケアする人,ケアされる人のために・62
みずみずしい感性が生み出すもの
柳田 邦男
pp.164-165
発行日 2011年2月10日
Published Date 2011/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686101966
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一冊の絵本を読み終えたとき,《これはすぐれた短編小説だ》と思うことが,よくある。子ども時代の出来事にしろ大人になってからの出来事にしろ,人生のある瞬間の断面ともいうべき,ちょっとしたエピソードに深い意味をもたせたり,あるいはそのエピソードをみごとな言葉で表現したりして,読む者の心を揺さぶる。そういう短編小説の世界に通じる絵本に出会うことがあるのだ。
アメリカの最近の絵本『むこうがわのあのこ』が,まさにそうだった。表紙の広々と草むらの広がる農村の風景は,アメリカの中西部を思わせる。この絵本の文を書いた女性作家ジャクリーン・ウッドソンは,オハイオ州出身,絵を描いたE.B.ルイスの出身地はペンシルヴァニア州だ。その水彩画は深みのある写実的なもので,田舎で育つ子どもの心模様を描くにはぴったりのタッチだ。
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