連載 おとなが読む絵本――ケアする人,ケアされる人のために・24
「ママ」という心を包む羊水―『ママ ほんとうにあったおはなし』『かあさんから 生まれたんだよ』
柳田 邦男
pp.552-553
発行日 2007年6月10日
Published Date 2007/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686100977
- 有料閲覧
- 文献概要
赤ちゃんがはじめて覚える言葉は,たいていの場合,「ママ」か「パイパイ」「うまうま」などだろう。なかでも「ママ」はただ早く覚える言葉というだけでなく,絶対的に自分を包むようにして護ってくれる存在,いつでもそこに飛びこめば受け入れてくれる存在として,本能的に身についてしまう言葉なのだと思う。だから,「ママ」がいなくなったり,鬼のように暴力を振るう存在になったりすると,赤ちゃんの心は嵐の中で寄港地を失った船のように,どこへ依存すればよいのかわからなくなり,心の発達が阻害され,ゆがみが生じやすくなる。もちろん「ママ」とは,必ずしも生みの母親だけを意味するのではない。不幸にして生みの母親が病気など何らかの理由があって,赤ちゃんを直接育てられなくなった場合には,夫なり祖母なり施設の保育士なりが,母親に代わる存在として,しっかりと抱きしめてやるような温もりのあるかかわり合いをするならば,赤ちゃんの心育ちは順当に行く。
そのような例を,動物の世界で描いたのが,アメリカの絵本作家ジャネット・ウィンターさんによる『ママ ほんとうにあったおはなし』だ。カバの赤ちゃんオーウェンは,寝ても覚めても「ママ,ママ」と言って,お母さんカバにくっついている。川で遊ぶときも「ママ」,草を食むときも「もぐもぐ…ママ」,お母さんカバにくっついて寝るときも「ママ」なのだ。
Copyright © 2007, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.