連載 職場のエロス・5
ガラスを包む
西川 勝
1,2
1老人保健施設ニューライフガラシア
2大阪大学大学院臨床哲学博士課程前期2年
pp.79
発行日 2001年9月15日
Published Date 2001/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1689900414
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安っぽい電子音が流れるナースコール。午前1時半。詰め所の椅子から立ち上がり,目をこすりながら訪れた部屋には,ベッドから降り立ち,柵をかろうじてつかんで,頼り気ない姿勢の足元が震えている人がいた。ぼくが部屋に入ってきたことに気づいても,顔を合わせるためにからだの向きを変えること島できずギクシャクした動きでいる。もう何年もパーキンソン病で苦しんでいる女性である。
「わたし,怖いの。蝋燭が…,ほら,蝋燭が燃えているでしょう…」。 表情は,それほどおびえでいるようには見えないが,病気による筋肉の硬直は表情筋にも及ぶのだから,ちょっと見の顔つきはあてにならない。そのうえ部屋は暗くてよく見えない。
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