連載 法と医療のはざまで[9]
チーム医療における指導医と診療科科長の責任
飯田 英男
1
1関東学院大学法学部
pp.774-775
発行日 2004年9月10日
Published Date 2004/9/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686100754
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S医大総合医療センターにおいて,患者の右顎下部滑膜肉腫の治療のためにVAC療法(抗ガン剤である硫酸ビンクリスチン,アクチノマイシンD,シクロホスファミドの3剤を投与する化学療法)を実施するに当たり,主治医Aは,同療法のプロトコールが週単位で記載されているのを日単位と読み間違え,2mgを限度に週1回の間隔で投与すべき硫酸ビンクリスチンを12日間連日投与するという誤った治療計画を立てた。チームリーダーである指導医Bおよび耳鼻咽喉科科長兼教授Cは,いずれもこの間違いに気づかないまま上記治療計画を承認したため,副作用の発現により投与が中止されるまで7日間にわたり同薬剤の連続投与が行なわれ,患者を多臓器不全に陥らせて死亡させた。これに対して,一審判決は,主治医Aを禁錮2年,3年間執行猶予(確定),指導医Bを罰金30万円,科長Cを罰金20万円としたが,控訴審判決は,B,Cに対する原判決を破棄して,Bを禁錮1年6月,Cを禁錮1年とし,いずれも3年間執行猶予とした(Bは確定,Cは上告中)。
医療過誤事件でも,一,二審の判決で量刑に差が生じることはままあるが,本件の場合は,指導医および科長(教授)の責任を単なる指導監督責任とみる一審判決と,治療責任(行為責任)を含むとみる控訴審判決の対立が根底にある。これは,チーム医療におけるチーム構成員の責任の在り方に対する考え方の相違によるものであり,この点が量刑判断にも影響を及ぼしていると思われる。
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