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はじめに
病院や診療所などヘルスケア関連組織や医療サービス提供業務の現場で「安全」が議論されるときの多くは,患者の安全,医療の安全を意味している。しかしながら,職員にとっては,職場が安全で,業務を安心して遂行できることが,医療の質と患者の体験を向上させるための基本である。このような認識も必要である。
表1は,英国Home Office(わが国の警察庁に相当)が行なった,英国犯罪調査2002/2003(BCS:British Crime Survey)の中から,職種別のバイオレンス被害の状況をまとめたものである。なおこの間,英国の全職種の平均的な被害率は,1.7%であった。
表1から明らかなように,現在の英国では病院や診療所は決して安全な場所とはいいがたく,医療サービスを提供する仕事は,警察官や警備員に次ぐ危険業務ということもできる。特に病院や診療所においては,看護師が最も多く被害に遭っていることは注目に値する。暴力的攻撃だけを取り上げると,看護師に比べて,医師の被害率は半分以下になっている。また,病院においては,加害者は患者自身,患者の近親者,外部の来院者となっている。
わが国の状況について,筆者は信頼できる統計的資料をもっていないが,2003年度に報道で取り上げられ,筆者が着目した4件の事件では,いずれも看護師が被害を受け,1件は死亡,3件は重症という痛ましい結果となっている。
なお,英国犯罪調査では,バイオレンス(暴力的行為)を,暴力的攻撃(assault)と脅し・脅迫(threat)に分類している。後述する英国保健サービス(NHS:National Health Service)では,脅し・脅迫を細分し,言語による嫌がらせ(verbal abuse)も重要視している。図1にNHSによるバイオレンスの定義を示す。
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