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はじめに
今日わが国では,入院期間の一層の短縮化,患者の重症化,カルテの電子化などの医療環境の変化が著しい。それに伴い,看護師の疲弊感が高まることから,若い看護師の離職が問題となっている。
米国に目を転じると,こちらは看護師不足が著しく,過去数年,連邦政府や州政府,民間財団などが,より多くの人々を看護という職業に惹きつけるための大々的なキャンペーンを行なってきたが,その効果はあまり上がっていないようである。スザンヌ・ゴードンは,米国の看護師不足から学ぶべき教訓は,まず「定着」のための努力が必要であって,看護が長期的に満足のいくキャリアとなれば,初めて社会は若い人びとを看護に惹きつけ,看護師を長期的にベッドサイドに定着させることができると述べている1)。
わが国が深刻な看護師不足に苦しまないために,今取り組むべき課題は,ベッドサイドで働く看護師が満足感をもち,自分は良いキャリアを積んでいると実感できるような職場環境を整備することであると考える。看護職者の快適職場感(看護職者が働きやすさという観点から職場をどう見ているか)に関する調査2)では,「人材養成」の面で,専門職歴1~3年の者が有意に快適感が高く,以後年代が上がるほど快適感が低下することが明らかにされている。新卒者に対する院内教育体制はほぼ整備されているのだが,中堅看護師へのキャリア開発支援が十分に行なわれていない実態を反映した結果といえよう。看護師の定着率が高まりつつある今日3),いかに中堅看護師のキャリア開発を支援し,職務上の満足を高めるかどうかが,「定着」を促進し,若者を看護に惹きつけるための重要な課題であると考える。
ところで,キャリアとは古くは「仕事の経歴」という意味で用いられてきたが,次第にその意味するところが拡大している。本稿では,「仕事のみではなく,人生と関わる人の生き方そのもの」4)という意味で,キャリアをとらえることにする。
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