連載 おとなが読む絵本――ケアする人,ケアされる人のために・6
いのちを支える言葉の花束『葉っぱのフレディ―いのちの旅』『喜びの泉―ターシャ・テューダーと言葉の花束』
柳田 邦男
1
1作家
pp.856-857
発行日 2005年10月10日
Published Date 2005/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686100246
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「いのちの大切さについて語ってほしい」と,講演の依頼を受けることが多い。この問題は難しい。「いのちは大切です」と言うだけなら簡単だ。しかし,昨今の世情を見ると,日本人の自殺者は1998(平成10)年に,突如前年より数千人増えて,3万人台を記録して以来,その高い水準のまま減りそうにない。金銭目当てにいとも安易に人を殺してしまう事件が相次いでいる。また,あまりにも理非をわきまえない少年凶悪事件が多発している。
食べるものにも事欠いていた戦後の混乱期に比べれば,最近は経済的に豊かになっている。にもかかわらず,凶悪事件や自殺が多いのはなぜなのか。豊かさゆえに欲望の歯止めがきかなくなっていること,倒産・リストラによるローン生活の破綻,過疎化・核家族化による老人の孤独,若い世代の育児能力の低下による子どもの人格形成のゆがみ,テレビ・映画の残酷な暴力シーンなど情報環境の劣悪化など,背景にある問題は深刻だ。
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