焦点 慢性性(Chronicity)と生活史に焦点を当てた看護学的研究—これからの慢性疾患研究に求められる視点
座談会 これからの慢性疾患に関する研究の視点
黒江 ゆり子
1
,
井上 洋士
2
,
佐藤 知久
3
,
市川 元子
1岐阜県立看護大学
2東京大学大学院医学系研究科
3京都大学総合人間学部
pp.345-352
発行日 2002年8月15日
Published Date 2002/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1681900686
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ポジティブなものを見つけたいというところからのスタート
黒江 私は「糖尿病をもつ生活」「糖尿病とともにある生活」に医療職者あるいは看護職者がどのような形でサポートできるかをずっと考えてきましたが,慢性疾患のある生活自体を私たちはどこまで本当に知ろうとしていたか,最近疑問に感じることがあります。すなわち,慢性疾患に関する看護領域,医療領域の研究がこれからどうあればよいのかを改めて考える時期にきているのではないかと思っています。そこで,研究者自身がどういう観点に立てば自分が知りたいと思うことがみえてくるか,なるべく具体的に考えてみたいと思います。私は井上さんの論文を読んで,「いてくれる」,「being」,「presence」と表現しているあたりの分析過程が印象的でした。まずこの研究をするに至った背景から紹介いただけますか。
井上 私の研究は「抗HIV薬の服薬アドヒアランスの維持因子」(31ページ参照)です。1998年頃,HIV感染症はまったく治療薬のない時代から,多剤併用療法を続けていれば治癒はしないけれども慢性的に経過していく疾患になりつつありました。薬ができたので「何とか服薬させよう」と,医療現場では「患者の服薬できない要因は何か」というネガティブな因子を懸命に発見しよう,それをみつけたらすぐに除去しようといった動きもみられました。
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