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はじめに
この度,「フェミニスト・セオリーから看護を見直す」というテーマでお話することになりました。この重要なテーマについて皆様と共に考える機会が与えられましたことを大変うれしく思っています。
ここで前もってお断りしておかなければならないのは,私たちが提示する見方が,アメリカという国での女性としての体験に基づいているということです。ですから,皆様の体験や文化からすると,何か違ったようにお感じになることもあれば,また逆に,体験や文化が異なっても共通点は多いということがお互いにわかってくるかもしれません。皆様と共に様々な観点から話し合い,お互いの共通点ばかりでなく相違点についても明らかにしていきたいと思っています。また,皆様からの質問やコメント,様々なアイデアをいつでも喜んでお受けしたいと考えています。
女性運動やフェミニスト運動は,19世紀から今世紀にかけて世界的に盛り上がりましたが,アメリカでは1960年代に広がりました。1960年代というのは,公民権運動がその頂点にあり,黒人に対する社会的・政治的差別に変化がもたらされた時代です。公民権運動を通して女性は,マスコミやテレビ,教科書等に蔓延する女性像というものに気づき始めました。そして,現在あるいは将来の女性の生活がこのような女性像によってどれほど影響されるかということを憂慮するようになりました。小説や絵画をはじめとした創作の中で女性がどのように表現されているかということを含めて,女性がこれまでに体験してきた歴史というものを再発見するために女性運動が起きました。フェミニスト学者は,教科書や映画,歴史書には女性の視点がほとんどないことを発見しました。この調査によって,私たち女性や子ども,そして男性は,西洋における父権制が様々な方法で女性および生活における女性の貢献を過小評価していることを認識するようになりました。
本日の講義では,フェミニストには様々な考え方があるということを知っていただくために,代表的なものをいくつか簡潔にご紹介します。そして,一般的なアプローチとして私たちがそれらを統合したものを紹介し,あらゆるフェミニストの考え方や理念に共通する根本的な理論を検討したいと思います。
各フェミニストの観点については,各々が重要とする考え方を明らかにしていきますが,それは,フェミニズム全般を理解する上で必要なものです。各々の視点は,女性に対する抑圧ということを十分理解するのに役立つと思います。さらに,父権的な男性支配の文化がいかに女性自身の感覚までも定義し形づくってきたか,また,社会の女性に対する扱い方にしても父権的な文化に依拠したものであるということがご理解いただけると思います。
西洋文化の中で生まれたフェミニストの考え方をご紹介するに当たり,これが皆様の文化とどのように関連するのかということを考え合わせながら話をお聞きいただけれはと思います。
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