特集 ケアサイエンス—「ケア共同社会」の実現をめざす学際的アプローチ
科学技術社会論からみたケアサイエンスの可能性
標葉 隆馬
1
1大阪大学社会技術共創研究センター
pp.224-233
発行日 2023年6月15日
Published Date 2023/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1681202099
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科学技術社会論の視点
科学技術研究の急速な発展は,我々に多くの知識と恩恵をもたらしている。しかしながら,そのようにして生み出されてきた先端的な知識が社会の中に実装・活用され,根づいていくためには,科学的な安全性の確保や,現行法制との関係性,プライバシーの保護の問題といった課題は勿論のこと,デュアルユースに関する課題,よりよい規制や政策の在り方など多岐にわたる論点を捉えつつ,その対応を考えていく必要がある。このような多様な論点群は,「倫理的・法的・社会的課題(Ethical, Legal, and Social Issues: ELSI)」と総称される。『第6期科学技術・イノベーション基本計画』(内閣府,2021)をはじめ,国内外の科学技術政策においても,再生医療,ナノテクノロジー,人工知能,合成生物学,脳神経科学などをはじめとした萌芽的科学技術の各分野において,研究開発の初期段階からELSIについて幅広く検討する機運が高まっている(内閣府,2021;標葉,2020;2021a)。
このように,知識基盤社会である現代において,先端的知識がもつ社会的影響への洞察と対応は避けて通ることのできないテーマである。そして科学技術研究の実施や新しい知識が活用される際に生じる課題について,社会的判断を行うための仕組みあるいは具体的な制度設計を行う営みは,「科学技術ガバナンス」と呼ばれる。
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