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COVID-19がもたらした「変化の認識」
災害は時間を進める
現在の社会では,多くの人にとって学校や職場など「ほぼ毎日通うところ」がどこであるかが,居住地選択の最も大きな要因の1つであり,大都市への人口集中や人口偏在の原因ともなっている。人口集中や人口偏在は,地域格差の拡大のみならず,住まい環境が貧弱なままに置かれることや,介護難民,待機児童などの問題の背景となっている。これは,経済的生産における価値が優先され,それによって,ケアを必要とする者とそれを提供する者,またそのための場所が高コストである(と思わせられてしまう)ために,それら社会的再生産の部分が低く留め置かれることを意味する。日本版CCRC(Continuing Care Retirement Community)など高齢期の地方移住/人口対流や多拠点居住は,COVID-19以前から,ある種の危機感をもって政府による地方創生の取り組みやテレビ番組等を通じた民間レベルでの緩やかなキャンペーンなどによって誘導されていた。
そうした中,2020年初春からのCOVID-19パンデミックの影響で,オンラインミーティングやリモートワークが急速に普及した。暴力的とも思えるほどの勢いでそれらの技術は社会に浸透した。対面会議や対面講義などという言葉すら一般に浸透した。社会の常識が変わったことを,レトロニム註1の発生と普及によって皆が目の当たりにした。企業等の考え方も体制も,部分的にせよ変わった。中には,フルリモートを選択して地方に居住場所を変えた人や,移住を検討している家族もいる。災害がもたらしたオンライン技術やサービスの加速は,「生活を組み立てる起点とすべき場所」の本質がなにかということを,にわかにクローズアップしたのである。
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