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ケアサイエンスとしての看護学
病気に「流行り」はない。COVID-19のように時流によってトピックになる病気があるが,その陰で人知れず健康に問題があり,苦しんでいる人もいる。患者が1人であっても,生活に何か悪影響があるのであれば,そこに全力投球をして支援するのが看護職の役割である。同じ病気,同じ年齢,同じ性別でも,病気の体験は人それぞれである。私たちは1人ひとりの体験,つまりN=1にこだわっていく集団であり,看護学はそれを体系化し再現することをめざす学問であり,学術的発展が再現性をもって社会(臨床)実装につながらなければ,無意味になりかねない学問領域である。それゆえN=1へのこだわりは強いが,N=1の価値を学術的に可視化し,サイエンスにすることはまだ発展途上の段階にある。
看護師の役割は法律で定められており,「診療の補助と療養上の世話」とある。「療養上の世話」ということは,対象を「生活者」として看る必要がある。しかし「生活者」として考えると非常に複雑で,診療場面の1コマを切り取ったものでしかない医療の現場では,対象をしっかりと捉えることが難しい。筆者の尊敬する認知症の専門医は,「診察室から出た後の患者さんの生活をできるだけ想像して,処方なり,アドバイスなりをできることが大事だ」と言っていた。まさに,「生活者」を相手にしていることがわかる。医師は自分たちの職能としてのアウトプットが処方や医学的アドバイスになるが,看護師はもっとその人の生活に踏み込んでいく必要がある。そうなると,かなり想像力を働かせて日々のケアにあたらないといけない。しかし,限られた時間,限られた人数でそれは可能なのだろうか。目の前の処置やケアをこなすことで精いっぱいである場合,かなり雲をつかむような話にもみえる。それに,患者の状態はいつも一定というわけではない。
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