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はじめに
大手前大学がみている「Brighter future」とは
2019年,JBIは創設20周年を迎え,「Better Evidence, Better Outcome, Brighter Future」という新しいヴィジョンを掲げた。大手前大学インプレメンテーションセンター,すなわち,The Otemae University Implementation Centre: A JBI affiliated group(以下OUIC)は,2019年に日本で最も新しいJBIセンターとして開設した。以来私たちは,「ここに来れば“ベストプラクティス”に触れられる」プラットフォームとなることをめざして活動している。
ベストプラクティスの要素の1つがEvidence-basedであることは,誰もが納得しているところだろう。だが,ベストプラクティスが実践できることはあたりまえなのだろうか。Evidenceという言葉が使われ出して長い年月が経っている。Evidence-based Medicineという用語は1991年のGuyattによる論文(Guyatt, 1991)で用いられたのが始まりとされている(正木,津谷,2006)。時を同じくして,イギリスでの2つの大きな動きとして,英国保健省(National Health Service:NHS)が研究開発部門を設置(1990年)し,その研究部門と協力する形でCochrane共同計画(1992年)が活動を開始した。看護領域でも,1990年代からエビデンスの重要性が強調され始めた。だが,その起源はフローレンス・ナイチンゲールがクリミア戦争での看護活動において,どうすれば看護ケアが改善し,志望者が減少するのかを,データを通して明確にしたことからからすでに始まっていたと考える方も多いのではないだろうか。だとすると,ナイチンゲールが活躍したのは19〜20世紀初頭であるから,私たち看護職は100年にわたって壮大な宿題に取り組んでいることになる。それだけ,ヘルスケア領域が取り組む課題は複雑であるということなのかもしれない。
OUIC開設の前年である2018年,私は初めてJBIのディレクター会議にオブザーバーとして参加した。世界に70を超える支部をもつJBIのディレクター会議は,国際色豊かなことはもちろん,参加者の職種もさまざま(看護師,助産師,放射線技師,医療人類学者,政策者,研究者等)であった。ディレクター会議では,特に発展的な試みに取り組んでいるセンターのプレゼンテーションが行なわれる。2018年のプレゼンターの1人は,中国は北京にある復旦大学のディレクターHu Yan教授であった。復旦大学のJBIセンターは,エビデンスをつくりだし,さらに臨床で実践するというサイクルを循環させるシステムを実現させていた。消費者の安全を保持するために必要な場合があるものの,基礎研究が臨床に応用されるまでにはある程度のタイムラグがあることが指摘されている(Morris, Wooding, & Grant, 2011)。つくりだされたエビデンスが迅速に臨床で実践されれば,ヘルスケアの質向上につながり,ケアを受ける消費者の利益となる。かつて兵庫医療大学センターのJBI-Kobe Center of Excellenceディレクターで,現在はOUICの副ディレクターをつとめる鈴井江三子教授とセンターの構想を練るにあたっては,このときの復旦大学のJBIセンターの取り組みに深い感銘とともに大きな刺激を受け,エビデンスを臨床で実践することに重点を置くセンターとしてOUICの設置を申請し,開設に至った。
本稿では,エビデンスを臨床へ定着させるためのOUICの挑戦の実際を紹介するとともに,専門職としての看護師があるべき姿についても考察し,JBIセンターとしてのセンターの役割と貢献について述べていく。
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