- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに
筆者は,看護師ではなく,また看護学の専門家でもなく,哲学の研究・教育を専門とする一介の大学教員にすぎない。しかし長年,哲学系諸学会の論文査読に携わり,また専門の「現象学」の立場から看護研究に関心をもって,「ケアの現象学」(榊原,2018など),「臨床実践の現象学」などと近年呼ばれるようになった研究活動にも積極的に関わってきた。そこで本稿では,これらの経験をもとに,筆者が携わってきた哲学系諸学会および臨床実践の現象学会の論文査読の基準を振り返り,看護における「事例研究」の査読基準を考えるための手がかりを提供してみたい。
論述の方針および順序は以下の通りである。
本特集では,事例研究にとっての「客観性」「再現可能性」「一般化可能性」「新規性」を明らかにすることが最終的にめざされているが,本稿ではまず,筆者がこれまで長年携わってきた哲学系諸学会のうち,3学会の査読基準を紹介し,そのポイントを上記4つの観点と比較しつつ整理する。その際,3学会とも査読基準は査読委員の間だけで共有され,ホームページ等で公開されていないため,本稿ではA,B,C学会と表記する。その上で,現象学という哲学の精神を汲みつつ,看護を中心にさまざまな臨床実践の営みの成り立ちを明らかにすることをめざして2015年に設立された「臨床実践の現象学会」〔西村ユミ氏(東京都立大学大学院教授)主宰:http://clinical-phenomenology.com〕の論文査読基準(上記ホームページにて公開)を参照し,臨床実践の現象学研究において論文に求められているものを整理する。これらの作業ののち,最後に,看護における「事例研究」の査読基準について,筆者の立場から課題と思われることを述べてみたい。なお,本稿には末尾に「付記」として,本特集の企画者である山本則子氏からの問いとそれに対する筆者の応答が加えられている。
Copyright © 2020, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.