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はじめに
報告ガイドラインとは,論文報告の質改善を目的として開発された文書で,代表的な報告ガイドラインとしては,ランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial;RCT)の研究報告ガイドライン(reporting guideline)であるCONSORT声明(Consolidated Standards of Reporting Trials Statement)が有名です(Schulz, Altman, Moher, for the CONSORT Group, 2010)。そして,CONSORT声明の初版が発表された1996年以降(Begg et al., 1996),CONSORT声明も改訂が重ねられ,ランダム化比較試験のさまざまな方法論に対応した拡張版(extensions)も発表されています。またランダム化比較試験以外にも,非ランダム化比較試験,観察研究,質的研究などのさまざまな報告ガイドラインがあります。
報告ガイドラインのデータベースであるEQUATOR(Enhancing the QUAlity and Transparency Of health Research) Network(http://www.equator-network.org/)によると,現在すでに419の報告ガイドラインがあります(2020年1月5日時点)。EQUATOR Networkについては,本誌『看護研究』の48巻7号(2015年)でも,EQUATOR NetworkのDeputy DirectorであるDr.I.Simeraによる「優れた研究のための触媒となるEQUATORネットワーク」で紹介されており(Simera, 2015),2015年当時は,EQUATOR Networkに収載されている報告ガイドラインは284であったと記されています(2015年9月30日時点)。このことから,この4年の間で135もの報告ガイドラインが増えたことになります。
筆者は,EQUATOR Networkのウエブサイトを見たときに,400を超える報告ガイドラインに途方に暮れそうになりましたが,「どのような報告ガイドラインがあるのかをまずは見てみよう!」と思い,すべての報告ガイドラインのタイトルに目を通してみることにしました。その結果,特定の医学分野に特化した報告ガイドラインが多数ありましたが,一方で,研究分野を問わず共通する「研究デザイン」をベースとした報告ガイドライン,看護学研究者に関心があると思われる心理社会学的な側面を取り扱った報告ガイドラインなどが複数あることがわかりました。またこれらの報告ガイドラインのうち,日本語訳されたものは非常に限られており,まだ日本で知られていない報告ガイドラインも数多くあるのではないかと思われました。
このような報告ガイドラインは,各分野を専門とされている方はすでにあたりまえのこととしてご存知であったり,また報告ガイドラインがなくても各分野の方法論を学んでいれば,当然のことが書かれているにすぎないと思われたりする方もいらっしゃるかもしれません。一方で,例えば,新たな分野の研究やこれまでにあまり経験してこなかった研究デザインの研究に着手するとき,あるいは,大学院生や研究者で論文執筆のトレーニング中にあるときには,馴染みがないものもあるのではないでしょうか。このような場合,報告ガイドラインはその論文報告の質を高めたり,論文執筆を指導する上で非常に参考になるものと思われ,研究の熟練者にとっても有用となる可能性があります。また,看護学研究は学際的な研究が多いことから,その知見は看護専門職のみならず,さまざまな分野に寄与することができます。このような点から,看護学研究の意義や独自性を高めていくことをめざすと同時に,それらを国内外問わず,看護学分野以外の研究者や論文の読者に対して伝えていくときの共通言語のひとつとして,国際的な報告ガイドラインに則った論文執筆が求められる場面もあるのではないかと筆者は考えています。こうした傾向は,今後ますます高まっていくかもしれません。
一方で,膨大なすべての報告ガイドラインに目を通すことは現実的ではなく,自分に必要な報告ガイドラインを取捨選択する必要があります。これらの中から,看護学研究者にも関連するであろう報告ガイドラインを紹介することで,読者の方々の論文報告の質の向上や,論文執筆の学習や指導のツールとして役立つのではないかと考えました。そこで,多くの研究者のご協力を得て,本号と次号の2号にわたり報告ガイドライン特集を企画することとなりました。
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