- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
- サイト内被引用
実践に基づくエビデンスとは何か
Practice Based Evidence(PBE)
エビデンスに基づく医療実践(Evidence-based Practice;EBP)が提唱されて久しい。それは,経験や直感で医療実践を行なうのではなく,科学的根拠に基づき有効な医療を行なおうということである。この考え方は,1980年代後半に提唱され広まった。しかし,エビデンスに基づくガイドラインに従った実践は,「煩雑で失望させるもの」ともいわれ,実践には十分反映されていない(Abraham/坂下訳,2008)。その理由の1つに,臨床家は研究成果を重要視していないという点がある(Abraham/坂下訳,2008)。エビデンスを産む研究デザインとして,RCT(randomized control trial;以下,RCT)は最も信頼性が高いものと考えられている。それは,均質な2集団(実験群とコントロール群)をつくることによって,すなわち,介入以外はすべて同じ(と理論的に仮定できる)2群をつくることによって,新しい介入の効果を明らかにできるからである。RCTは,論理的に内的妥当性(介入の効果)を示すには最強の研究デザインであるが,一方で,外的妥当性が低いという課題がある(Black, 1996)。すなわち,RCTは,現実世界を必ずしも反映していないといえる。RCTは,実際の利用者を反映せず(対象者は多くの疾患をもたず,高齢でもない),医療者は水準以上の技術をもったものが揃えられ,介入にたっぷり時間を使うことができ,介入は整備された施設で行なわれる(Black, 1996)。複雑な要因が絡み,偶発的に事が進んでいくこともある現場をよく知っている臨床家は,直感的にRCTの結果を信頼していないのかもしれない。科学を支配してきた実証主義の認識論は,複雑に絡み合って起こるさまざまな現実問題を解決するには限界がきているということでもあろう。
それならば,複雑な実践の現実世界をまるごと捉え,日々の臨床実践からエビデンスを生み出そうという目的から,Practice Based Evidence(PBE)という考え方が提唱された(Tunis, Stryer, & Clancy, 2003; Westfall, Mold, & Faqnan, 2007)。Chinn, & Kramer(2015)は,看護が取り扱うエビデンスは,実際に臨床で実施(実験)され,実際に健康関連の目標の実現を促進することが認められたアプローチや技能などの「実践」の検証から得られた,「Practice Based Evidence」だと主張する。また,Abraham(坂下訳,2008)は,研究から生まれ一般化される知としての「マクロエビデンス」に対して,臨床家の個人の経験の中で起こるトライアルと評価(自分の目で見て確認する)から生まれるエビデンスを「マイクロエビデンス」と呼び,マイクロエビデンスを積み重ねることが共通の知(マクロエビデンス)へとつながると述べている。
Copyright © 2019, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.