特集 事例研究をどううみだすか─事例がもたらす知の可能性
関連領域から
臨床心理学における事例研究の位置づけと課題
渡邊 誠
1
1北海道大学大学院教育学研究院
キーワード:
事例研究
,
教育訓練
,
研究法
,
普遍性
,
暗黙知
Keyword:
事例研究
,
教育訓練
,
研究法
,
普遍性
,
暗黙知
pp.455-460
発行日 2017年8月15日
Published Date 2017/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1681201417
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はじめに
最近になって変化がみられるものの,事例研究は日本の臨床心理学において,その黎明期ともいうべき1970年代以降,長い期間を通じて中心的な位置を占めるものと考えられてきた(山川,2014)。臨床心理学における事例研究には,研究法としての側面とともに,教育訓練としての側面があると考えられ,両者の意味において中心的な役割が与えられてきたといってよい。特に,対人援助の一領域としての臨床心理学における実践家を育成するという目的にとって,事例研究は非常に重要な方法であるとされてきた。おそらく,この教育訓練上の重要性が,近接諸領域とは異なり,日本の臨床心理学において事例研究が中心的な位置を与えられてきた理由の1つであろう。しかし近年になって事例研究は,臨床心理学の内部において,研究法としての客観性を問う声が,多く投げかけられるようになった。その中で,事例研究における客観性,普遍性を明確化しようとする動き,事例研究を体系化された方法にしようとする動きが生まれてきている。臨床心理学における事例研究の,教育訓練法としての側面,研究法としての側面それぞれの特徴について述べ,研究法としての客観性を高めるべく提案されている理論と方法を概観し,事例研究を行なうに際してのいくつかの留意点について述べてゆきたい。
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