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はじめに
本稿では,米国における臨床看護学博士(Doctor of Nursing Practice;以下,DNP)の概要を,私自身のナースプラクティショナー(以下,NP)としての経験と,教育者の立場としてミシガン大学とノースカロライナ大学においてDNPプログラムの立ち上げに関わった経験を通して述べたいと思います。DNPは,一言でいうなら,NPのアップグレードだと思っていただけたらよいと思います。本稿は,主としてAmerican Association of Colleges of Nursing(以下,AACN)が2006年に発表したThe Essentials of Doctoral Education for Advanced Nursing PracticeとそのFact Sheetをベースにしています。
私は1982年,東京大学医学部保健学科母子保健学教室で博士号を取得し,家庭の事情で米国Illinois州に移りました。当時は乳児を抱え,英語もロクに話せませんでしたが,翌年とりあえず,看護師免許(イリノイ州の資格としてはRegistered Nurse)の試験には受かりました。仕事を探している間,いろいろなところでボランティアをしたことが幸いし,プランドペアレントフッド(Planned Parenthood)が,私をNPとして雇ってくれました。プランドペアレントフッドというのは,低所得者の女性に対し,無料または低価で避妊のサービス,性病治療そして妊婦健診などを提供する米国の非政府組織です。30年前の当時はまだ,このような形で雇ってもらうことが可能でした。私の上司にあたり,当時そのプランドペアレントフッド所長のアン・ロビン医師が私の履歴を見て,日本で助産師の資格を取得していることを考慮し採用してくれて,彼女の監督下で働くこととなりました。
その後,ミシガン大学に勤務する頃になるとNPの規律が徐々に成立し,私もそうした規律に基づく資格のないまま働いていくのは難しくなりました。そこで1990年代に,Women's Health Nurse Practitionerの資格をとりました。その頃には米国全体で,ほとんどのNP養成機関が修士課程に組み込まれていました。
NPという概念は日本でもすでに定着しつつあると思いますが,日本では助産師や保健師の資格が看護師資格に基づいているように,米国のNPの資格はレジスターナース(以下,RN)の資格に基づいています。RNになってから,NPになることができるのです。一定の枠の中で診断したり,そのための検査をしたり,処方を出したりすることが看護師の業務になった折に,世間ではMidlevel ProviderとかPhysician Extenderなどと呼びましたが,看護界はこのような呼ばれ方はあまり歓迎されないと考えます。医師の行為に対し,その下にいるからMidlevelなのかと言い返したくなりますし,Extenderにいたっては,看護師の手は猫の手ではないと言いたくなります。
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