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はじめに
私は現在,イリノイ大学シカゴ校(University of Illinois at Chicago;UIC)看護学部の臨床博士課程(Doctor of Nursing Practice;DNP)で学んでいます。DNPの中には,ナースプラクティショナー(Nurse Practitioner;NP),クリニカルナーススペシャリスト(Clinical Nurse Specialist;CNS),リーダーシップ(看護管理)という3つの専門分野があります。また,NPの中でも成人,小児,ファミリー(総合診療),婦人科(女性の健康),助産師とエリアが分かれており,UICでも,12の専門分野から選択することができます。私は,ファミリーナースプラクティショナー(Family Nurse Practitioner;FNP)の分野を選び,現在勉強しています。
FNPの役割は,プライマリケアプロバイダーですが,日本における総合診療と近い臨床の分野といえるでしょう。就職先は主に,外来診療中心のクリニックです。,米国においては,FNPは家庭医と同様に診察,診断,薬の処方,また専門医への紹介などが可能です。家庭医とFNPは同じようにプライマリケアにおいて,協力し補い合いながら住民の健康の保持増進に努めています。プライマリケアの実践モデルはヘルスプロモーションなので,対象を全人的にみて,健康の保持増進を図ることが重要です。また,対象のライフスパンは新生児から高齢者まで幅広いことも家庭医とFNPの特徴です。
ここ数年前まで修士課程というものは,高度実践看護師(Advanced Practice Nurse;APN)になるための学位とされていました。しかし,AACN(American Association of Colleges of Nursing)は2004年に,APNの資格を取得できる学位を修士課程から博士課程に変えることを推奨しました。これにより,DNPプログラムの進展とともに,DNPという新しい学位がますます好まれる学位に変わってきています(AACN, 2006;2015)。
なぜ,修士課程のままではいけなかったのか。それは,NPという職柄には先述の通り,プライマリケアにおいて医師と同等のスキルと知識が求められるからという点にあります(AACN, 2006)。診察や診断,薬の処方,専門医への紹介までを診療範囲(scope of practice)とすることは,それだけ重い責任を背負って臨床実践に取り組む仕事ということであり,高い教育が必要とされるようになってきたのです。
また現在,DNPの学位をもつAPNの活躍の場は臨床の現場にとどまらず,病院レベルでの政策立案や,州や連邦政府レベルでの国内政策および立法に携わる議員を輩出するなど広がりをみせています。医師などの専門職者と同じテーブルで意見を交わす立場に立つのには十分な資格と教育が必要とされることから,博士号レベルの教育を受けた看護師たちへの期待が高まっているといえます。
博士号といっても,看護にはPhDとDNPの2種類があります(AACN, 2015)。単純に比較すると,PhDは「研究」の博士,DNPは「実践/臨床」の博士です。PhDのフォーカスが,研究を通して新しい知識を生み出すことに当てられるのに対し,DNPのフォーカスは,現在すでに明らかになっているエビデンスをもとに,現在のシステムや環境をどのように改善できるか,またはエビデンスが実際に正しいものなのかを検証することにあります。
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