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はじめに
聖路加国際大学大学院看護学研究科(以下,本学)博士後期課程は1988年に設置され,看護学博士(Doctor of Philosophy; PhD)の学位を取得するためのコースとして,これまでに課程博士を146人,論文博士を14人輩出してきた。これに加え,2017年度より,高度看護実践者を対象とした博士の学位であるDoctor of Nursing Practice(以下,DNP)を取得するためのコースを開設する。
米国看護系大学協会(American Association of College of Nursing;AACN)では,2004年10月に「看護における実践博士に関する立場表明」(AACN,2004)を発表し,「高度実践看護は修士の学位から,博士のレベルの学位へと2015年までに引き上げる準備をする必要がある」等とし,DNPのカリキュラムでは,伝統的な修士課程を基盤に,エビデンスに基づく看護実践,質の向上,システムのリーダーシップなどの教育を主要分野で提供することを提言している。このように米国では,看護学の博士後期課程において,研究を中心としたPhDコースとは別立てのカリキュラムでDNPコースを置き,看護実践の質の向上に貢献する高度看護実践者や臨床現場での指導教員となる看護人材の教育を担う大学院が急速に増加し,DNPコースは現在289課程,準備中が128課程で,全米ではすでに2010年に,DNPコースがPhDコース数を上回っている(AACN, 2016)(図1)。
米国においてDNPコースが急速に増大している背景には,国民の健康問題の多様化や複雑化,ヘルスケア環境の変化等が挙げられる。わが国においても,少子超高齢社会への人口構造の変化,都市部と非都市部の人口や医療サービスの偏在,健康格差の拡大など,保健・医療サービスへの平等性の偏り,そして看護基礎教育が学士課程教育にシフトしていることなどが,DNP教育の潜在的ニーズとして挙げられる。
本学では,1980年に大学院修士課程を設置し,1997年度に上級実践コースを開設して専門看護師教育を開始した。上級実践コースの修了者は現在まで256人にのぼるが,その多くは,看護の実践現場で活躍する中,さらなる看護学の探究や研究力を身につけるため,博士後期課程に進学している。しかし,修士課程の上級実践コースでまとめる課題研究では,研究の基礎を十分に取得し得ておらず,看護理論や研究法等に重点が置かれている博士後期課程(PhDコース)の教育課程のレディネスとしては不十分という意見もみられていた。また,修了後,臨床現場に戻る者として,現場の看護実践のエビデンスや質の向上を図るための教育科目は含まれていなかった。今後,高度看護実践者として看護の質を高めていくことのできる人材育成や,国際化,情報化の中での正しいエビデンスの選択,多様な場における多様な健康ニーズに対応でき,諸外国でも活躍できる高度看護実践者を輩出することは,本学の建学の精神である「キリスト教精神を基盤として,教育・実践・研究の有機的連携に基づき,国内外の看護保健に貢献する人材の養成を行う」および「看護学を専門としその職域において指導者となる人材を育成する」という教育目標と一致するものと考えられた。
本稿では,本邦で初の開設となるDNPコースについて,その背景と開設に至る経過,教育でめざすこと,そして具体的なカリキュラム内容について述べる。
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