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はじめに
看護学と文化人類学は,「人間存在の描写と探究をめざす」という意味において親和性が高い学問領域である。しかしながら,磯野が前稿で指摘するように,双方の研究における結果提示の仕方は明らかに異なる。ある現象を探究するとき,文化人類学では空間軸(通文化的視点),時間軸(歴史的視点),理論軸(分析の視点)という3つの軸から議論することで研究結果を提示する。それに対し,看護学における質的研究では,カテゴリー化による結果の提示が大半を占める。
そこで本稿では,1.看護学と文化人類学はめざすものが似ているのに,なぜ研究結果の提示の仕方が違うのか?,2.看護の現象を理解したり説明したりするためにカテゴリー化を行なうのはなぜか?,3.カテゴリー化によって情報提供者の何を理解し記述しようとしているのか?,4.看護における質的研究は最終的に何をめざすのか?という4つの問いを手掛かりに,看護における質的研究の独自性を考えたい。
なお,筆者らはともに10年余りの臨床経験ののちに学士課程および博士前期課程において人文・社会科学系の学問領域を専攻し,現在の研究活動にあたっては,水嵜は現象学的解釈学を,田辺は医療人類学,広義には文化人類学を研究の拠り所としている。本稿は,臨床経験から生じた問いを追究するために質的研究に取り組もうとしている方や,すでに取り組んでいるものの,「臨床で起きている看護の現象は複雑。これを抽象的なキーワードで表現してしまっていいのだろうか?」「私が経験してきた看護の現象はこんなカテゴリーとは違う!」と感じている方たちの目に触れることを願って記したものである。なぜならば,筆者ら自身も同じような思いを抱き,悩み,考える中で,「我々が修めた学問とは異なる何かが看護学の質的研究にはある」と確信するに至り,この何かを明らかにすることが,看護学における質的研究の地平を拓くと信じているからである。
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