焦点 事例研究と看護記録
レポート
精神科臨床における記録とその問題点
小此木 啓吾
1
1慶大医学部精神神経科教室
pp.165-169
発行日 1980年7月15日
Published Date 1980/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1681200613
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はじめに
精神科医の仕事の大半は,人の話を聴くことである。それだけに,面接の内容をどう記録するかが,常に問題になる。もちろん,話の内容だけでなく,われわれは,面接中に観察する患者の態度,表情,声の抑よう,話し方,沈黙,といった,そのすべてを記録の対象にする。
ただし,私自身は,学生時代から現在まで,記録をとることは,たいへん苦手である。診療上の記録はともかく,学生時代には,ほとんどノートをとらなかったし,現在も,学問上の研究以外のものについては,メモもノートも全く用いることがない。その場で理解することに徹することというのが,鉄則になっている。講義を聞いたり,研究会に出席しながら,ノートばっかりとろうとする人がいるが,あれでは,その場で理解し,記憶するゆとりはないのではないか,と気がかりである。同様のことが,臨床でもあてはまるのであって,はじめから記録することばかり考えると,その時,その場で,状況を理解し,判断し,記憶するという,最も基本的な臨床家としての機能が身につかなくなるおそれがある。われわれは書記とは違うのである。たとえ記録なしでも,患者のことはすべて頭に入るという修練があって,それから記録の仕方についての論議がはじまる。
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