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本書は,質的研究法の中でも最も広く用いられている手法のひとつであるグラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)の自習書の第2版である。しかし,単なる技法の自習書を超えて,筆者がつかんだ質的研究のエッセンスを読み手に伝えようとする真摯なメッセージのようにもみえる。初版から継続する本書の特徴は,GTAの学びの過程が10前後のステップに分けられ,著者のゼミナールに参加しているかのような臨場感のもとでその手続きやコツが学んでいける点である。今回の改訂では特に,研究テーマとリサーチクエスチョンの設定について大幅に加筆がなされ,具体的なデータを扱う準備段階に関するアドバイスも増えている。著者の実際の授業が絶えず更新され深みを増しているのに呼応して,本書も進化を続けているのである。旧版の読者でも,本書を通じてさらに深くGTAを学び直すことができるであろう。
微妙だがより大きな旧版との違いは,いくつかあるGTAの手法の中で著者が自らのそれを「戈木クレイグヒル版(のGTA)」と呼んでいる点である。背景には,自らの方法の独自性を自覚した筆者の自負と覚悟があるように感じられる。その独自性の中心にあるのが,分析過程における「プロパティ」と「ディメンション」という分析ツールの重視である。さしあたり,「プロパティ」は対象の属性を捉えるための大枠(例えば「色」),「ディメンション」はその大枠の中における位置づけ(例えば「赤」)と考えておけばよい。著者は,データを読んでそこにラベル名をつける際にも,また,カテゴリーをつくってそれらを結びつける際にも,この2つの概念を参照する。この手続きは旧版以上にていねいに解説されているように思われる。
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