特集 北欧ケアとは何か 看護研究への示唆
北欧ケアの思想的な拠り所―問いとしての「福祉」
竹之内 裕文
1
1静岡大学創造科学技術大学院・農学部
キーワード:
包括的福祉
,
ノーマライゼーション
,
当事者管理
,
well-being
,
QOL
Keyword:
包括的福祉
,
ノーマライゼーション
,
当事者管理
,
well-being
,
QOL
pp.450-465
発行日 2012年8月15日
Published Date 2012/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1681100685
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
第1節
問題の設定─スウェーデンでの研究生活を振り返りつつ
スウェーデンの生活
2011年4月から2012年4月まで,1年間の在外特別研修の機会を利用して,筆者はスウェーデンのボロース(Borås)で生活した。ボロース市は,スウェーデン第2の都市であるヨーテボリ(Göteborg)から内陸(東)に向かって約65kmに位置する,人口10万人ほどの小さな街である。
住民の日常生活は,自然との密接なかかわりのなかで,ゆったりと営まれている。筆者の居住するHässelholmen(ハッセルホルメン)地区も四方を森に囲まれており,アパートのすぐ近くの森の道では,年代や性別を異にする多くの人たちを見かける。なかでも基礎学校(6~16歳)の生徒や就学前の幼児が,担当教員に率いられ,集団で歩く姿をよく目にする。子どもたちは森の中で,基本的に干渉を受けることなく,思い思いに時間をすごしている。森の道をさらに奥まで進んでいくと,やがて小さな湖に出る。湖畔では多くの市民がくつろぎ,短い夏の光を全身で浴びている。秋には家族や仲間たちと森に分け入り,きのこ狩りを楽しむ。スウェーデンでは,自然享受権(Allemansrätten)が基本的人権の1つとして保障されており,土地所有者に損害を与えないかぎり,他人の土地に自由に立ち入り,自然の恵みを享受(通行,滞在,利用,採取)することが認められている。冬の足音が近づくと,湖に面したサウナは賑わいをみせる。たっぷり汗をかいた後,零下の水温の湖に飛び込む者も少なくない(筆者も挑戦した)。まさに「森と湖の国」の生活を満喫した1年間であった。
Copyright © 2012, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.