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はじめに
私は浜渦辰二氏・竹之内裕文氏とともに,2011年11月20日から27日にかけて,スウェーデンとスコットランドにある3つのホスピス・緩和ケア病棟を訪問した。訪問の主たる目的は,浜渦氏が本号(pp.428─438)で述べているように,北欧ケアの思想的背景を探求するという研究の一環にあった。浜渦氏らの研究は,現在,スウェーデンの現象学を基盤とする看護学研究者らとの相互交流により進められている。その中でわれわれの訪問は,ホスピス・緩和ケア病棟で直接ケアにも携わる研究者らと討議を重ね,北欧ケアの思想をより深く理解する手掛かりを得ることをねらいとした。
今回訪問したのは,スウェーデンの2施設と,スコットランドの1施設である。この3施設を選んだ背景には,当地で研究活動を行なっていた竹之内氏の尽力によるところが大きい。施設訪問にあたりわれわれは,すでに「生活世界」を提唱するカーリン・ダールベリ(Karin Dahlberg)氏とともに研究活動を行なっていた竹之内氏を中心に,質問内容や議論するテーマについて検討した。
検討においては,宮城県名取市で在宅ホスピスを展開する爽秋会岡部医院を中心とするタナトロジー研究会のメンバーも加わった。その結果,スウェーデン/スコットランドと日本の比較を行なうことを想定して,緩和ケアを取り巻く状況の全般的な傾向,地域社会とのつながり,スピリチュアルケアの動向,介護施設からみる看取りの実態,人間と自然のつながりからみた医療・福祉と環境のあり方等について議論を深めることになった。その結果,これらの質問により的確な回答が得られること,あるいは示唆が得られること,本来の目的である北欧ケアの思想的背景がうかがい知れる施設であることを基準にして選定されたのが,先に述べた3施設だったのである。
2人の哲学者と訪問をともにすることになった私には,緩和ケア病棟で勤務した経験をもつ看護師として,また現象学の初学者として,現象をありのままに捉え,可能な範囲で両者をつなぐ役割が与えられた。さらに私は,十分とはいえないものの,Dahlberg氏の論文を読んだ上で意見を交わし,その生活を垣間見て理解を深くしたため,本稿においては,視察した4施設のうち3つを紹介し,ホスピス・緩和ケア病棟とDahlberg氏の「生活世界」との関係についても報告したい。
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