特集 経験を記述する 現象学と質的研究
うつ病という病いの経験を語ること/記述すること
近田 真美子
1
1東北福祉大学健康科学部保健看護学科精神看護学
キーワード:
うつ病
,
病いの語り
,
経験と記述
,
生き方
,
精神看護
Keyword:
うつ病
,
病いの語り
,
経験と記述
,
生き方
,
精神看護
pp.368-376
発行日 2012年7月15日
Published Date 2012/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1681100671
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第1節
はじめに
私は7年前より,うつ病回復者の語りに着目し,彼らの生き方を「状況構成」(Tellenbach,1976/木村訳,1978;高岡,2003)という視点から捉え,その特徴を明らかにしてきた。そして,語られた内容から共通点を見いだすという方法で導き出した答えは,彼らがこれまでの生き方が通用しない状況で発症しており,再発するかしないかの分水嶺は,自分の生き方に多少なりとも変化を組み込むことができたかどうかにかかっているということであった(近田,2010)。
しかし,うつ病からの回復を考えるためには,これまでの研究方法では限界も感じている。例えば,研究者である私は,すでにうつ病の病前性格や発症要因,症状について知ってしまっており,そうした先入観に引っ張られるようにして彼らの経験内容をまとめあげ,生き方や価値観の変化として片づけはじめてしまっている可能性が大きい。生き方とは,まさに1人ひとり異なる経験である。共通点を抽出し抽象度を上げるプロセスの中で,逆に零れ落ちてしまう事象があるのではないだろうか。
そこで本稿では,過去にインタビューに応じてくれた方の中で,発病前後の生き方の変化について具体的に語ってくれたAさんの語りに着目し,うつ病という病いの経験がいかに語られるのか,事象そのものをこれまでとは別の角度から問い直すことを試みたい。そして,うつ病という病いの経験を記述することがどのような意味をもつのか検討したい。
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