焦点 慢性の病いにおける他者への「言いづらさ」─ライフストーリーインタビューは何を描き出すか
7つのライフストーリー
4.HIV感染症をもつDさんのライフストーリー
市橋 恵子
1
1京都南病院地域連携室
キーワード:
HIV/AIDS
,
セクシュアルマイノリティ
,
カミングアウト
,
感染症
Keyword:
HIV/AIDS
,
セクシュアルマイノリティ
,
カミングアウト
,
感染症
pp.274-279
発行日 2011年6月15日
Published Date 2011/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1681100525
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はじめに
病いの背景─HIV感染症の始まりから現在まで
1981年6月,米国のCDC(Center for Disease Control)が,ロサンゼルスやサンフランシスコで,若い男性が極端な免疫不全が原因のカポジ肉腫,サイトメガロウイルス感染症などに罹患し死亡するケースがみられていると報告した。そして同じような症状が世界の各地で報告されはじめた。この免疫不全による症候群は,1982年にAIDS(後天性免疫不全症候群,以下エイズ)という病名がつけられ,1983年には病気の原因となるウイルスが特定された。このウイルスは後にHIV(ヒト免疫不全ウイルス)と名づけられた。
HIVは,それに感染したヒトの体液に存在し,粘膜を経て他者に感染する。HIV感染症は1995年まで決定的な治療法がなかった。そのため感染者は徐々に免疫不全に陥り,死の転帰をたどった。また感染者の多数が男性同性愛者であったことから,セクシュアルマイノリティの存在が顕在化する。性感染症,死の転帰といった病気の特徴は,当時世界中でエイズパニックと呼ばれる社会不安を起こした。治療法のなかったこの病いも,1996年前後から抗HIV薬が相次いで開発された。抗HIV薬はHIV感染症を完治させることはないが,ほぼ生涯服薬を継続することによって,ウイルスの増殖を抑えながら日常生活を続けることが,現在は可能となっている。
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