- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに
本焦点は,「看護学におけるTranslational Research」に関する筆者らの構想やコンセプトを,振動による褥瘡の治癒促進という具体的なテーマに沿って,述べていこうとするものである。
Translational Researchという用語は,日本語ではしばしば「橋渡し研究」などと呼ばれ,動物実験や分子・細胞レベルのいわゆる基礎研究と,それらの現場での応用を含めた臨床研究との間を文字通り橋渡しする研究である。主に医学系・工学系・薬学系などの分野で用いられる用語であり,近年多くみられるようになった。また大学と企業との産学共同研究においても一種のキーワードとなっている。多くの場合は,いわゆる基礎研究のなかから臨床に応用可能な萌芽的な題材(しばしば「シーズ」と呼ばれる)を探し出し,それを実際に臨床に使えるツールとして開発する応用研究のことを指す。しかしその具体的な構想やコンセプトは,この用語を用いる研究者やグループによってさまざまである。
そのなかにあって,特に患者の全人的なあり方を重視し,現場での臨床実践を立脚点とする看護学という学問において,Translational Researchというものをどう位置づけるべきだろうか? これは容易に解答が得られる問いではないであろうが,筆者たちのグループで行なわれた振動による褥瘡治癒促進のメカニズム解明と振動装置の開発研究は,いわば現在の看護学において考えうる限りでは,最先端のTranslational Researchのモデルケースと呼べるものではないかと自負している。
本焦点は以下,振動に関する研究の各プロセスを実際に担当した看護学研究者たちが,各自の研究内容を詳細に解説した論文から成り立っている。それらに先立ち本稿では導入として,振動の生理作用,特に血流増加など創傷治癒に深く関わる現象に関する研究の最近の動向を概説し,さらに筆者らの振動研究をめぐるTranslational Researchの展開に関する総論的解説を試みたい。
Copyright © 2010, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.