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はじめに
日本においては,100万人以上がC型肝炎に,そして200万人以上がB型肝炎に感染していると見積もられている(Narai, et al., 2007)。これらの人々は外科的処置下において,恐らく患者の血液や体液に暴露してしまったものと考えられる。特に針刺し事故は手術室で働いている医療者にとって,血液媒体病原体へ感染するリスクを非常に高めている。
従来,手袋は手術室スタッフの手から患者への細菌感染を防ぐために装着されていた。現在は,患者からの血液媒体病原体の感染から医療者を守るという第2の目的のために装着されている。しかし,手袋1枚では防ぎきれないことが多い。先行研究では,18~50%の手術において,手袋が破損してしまうことが報告されている(Partecke, et al., 2009 ; Quebbeman, et al., 1991)。手袋の穴開きの頻度は,手術の時間が長くなるほど増加する(Eklund, Ojajarvi, Laitnen, Valtonen, & Werkkala, 2002 ; Partecke, et al., 2009 ; Ventolini, Neiger, & Mckenna, 2004)。また処置中に気づかれない手袋の穴開きは83%にものぼる(Thomas, Agarwal, & Mehta, 2001)。
手袋の二重装着を手術チームに義務づけることは血液媒体病原体感染のリスクを低下させているという実質的なエビデンスを,これまでの研究は示している。82%の症例では,外側の手袋に穴が開いたとき,内側の手袋は破損せずに装着者を保護したことが確認されている(Thomas, Agarwal, & Mehta, 2001)。もし,両方の手袋に穴が開いた場合でも,内側の手袋の阻止効果により,医療者のさらなる感染リスクは減少するだろう。二重に手袋をしているならば,もしも針が2つの手袋に穴を開けたとしても,暴露される血液量は82.8%~95%軽減される(Bennett & Howard, 1994 ; Wittmann, Kralj, Kover, Gasthaus, & Hofmann, 2009)
TannerとParkinsonは,コクランシステマティックレビューを行ない,手袋を二重に装着する効果について,2009年までの研究を調べた(Tanner & Parkinson, 2006)。そのシステマッティックレビューでは18の臨床試験を検討し,そのなかで9件のRCT(臨床対照比較試験)が選択基準に合致した。これら9つの研究でメタ分析を行なった結果,以下のことがわかった。
・手袋1枚と二重装着を比較したとき,穴が開く割合には差がみられなかった(p=0.3)
・手袋1枚と二重手袋を比較すると,皮膚に最も近い手袋の穴開きは有意に減少した(p<0.00001)。
・外側の手袋の穴開きが発見される機会は,色つき手袋を内側に装着すると,通常のラテックスの手袋を2枚装着したときと比較して,有意に多かった(p=0.002)。
(Tanner & Parkinson, 2006)
手袋を二重装着することで,手袋の穴開きによる肌の露出から手術チームの医療者を守るということが,高いレベルのエビデンスとして示された。また内側に色つき手袋を装着することは,使用中の手袋破損を発見しやすくする。穴開きの発見率は色つき手袋を下につけた場合78~90%であり,1枚の手袋のときは21~42%であった(Tanner & Parkinson, 2006)。
米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention ; CDC)は,手袋の二重装着を奨励している(Mangram, Horan, Pearson, Silver, & Jarvis, 1999)。同様に,米国整形外科学会,米国整形外科医協会,米国手術看護師協会(The Association of periOperative Registered Nurses ; AORN)も,侵襲的手技の間の手袋の二重装着を奨励している(AAOS, 2002 ; Anonymous, 2009)。
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