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研究の背景
ナーシングホーム(以下,NH)で行なわれているケアとその入居高齢者のアウトカム,特に失禁と疼痛ケアの質が低いことについては,非常に広く関心が集められている。NH入居者のうち50%に尿失禁があり(Watson, Brink, Zimmer, & Mayer, 2003),疼痛に対してケアが行なわれていない高齢者は45~80%に至るといわれている。このような問題があること,そして入居者のアウトカム改善が期待できるエビデンスに基づく実践(以下,EBP)プロトコルの有効性が広く知られているにもかかわらず,EBPを採用しているNHは多くないのが現状である(Feldman & Kane, 2003)。特に登録看護師(Registered Nurse;以下,看護師)の数自体が少なく,老人看護を専門とするスタッフが少ない,あるいは配置されていない地方のNHでは,EBPの採用はほとんど行なわれていない(Fulmer & Mezey, 1999)。このような現状にもかかわらず,NHにおけるEBP採用の方略に関する研究はほとんど行なわれていないことが指摘されている(Watson, Brink, Zimmer, & Mayer, 2003 ; Resnick, Quinn, & Baxter, 2004 ; Schnelle, McNees, Crooks, & Ouslander, 1995 ; Cohen-Mansfield, 1997)。
NHにおいてEBPを採用するという変革を起こすためには,施設管理者やスタッフがEBPに関する理解を深めなければならない。すなわち,EBPを活用することで実践がどのように向上するのか,なぜ実践は向上させなければならないのか,スタッフ(看護師や看護補助者)のEBP活用力を高めることが入居者のアウトカムの違いにどのように影響するのかについてである(Resnick, Quinn, & Baxter, 2004 ; Weisman, Grifie, Muchka, & Matson, 2001)。またいくつかの先行研究において,NHにおけるEBP採用に影響する要因が指摘されている。それらは,施設管理へのコミットメント,施設の文化,リーダーシップ,スタッフの知識・時間・報酬,施設の規模や複雑性,スタッフが施設外の活動に参加している程度,同一資本のNHチェーンであること,私費の入居者率が高いことである(Reinhard & Stone, 2001 ; Castle, 2001 ; Greenhalgh, Robert, MacFarlane, Bate, & Kyriakidou, 2004 ; Hollinger-Smith, Lindeman, Leary, & Ortigara, 2002 ; Mueller, Degenholtz, & Kane, 2004)。
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