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はじめに
近年,医療の世界においては,疾病構造の変化,医療の高度化・専門化などが指摘されている。また看護では,高齢者や健康問題をもつ人に対する地域看護の需要が高まっている。さらに個人の価値観が多様化し,社会は看護の専門知識・技術はもちろん,豊かな人間性や知的な判断力を有する資質の高い看護職を大学において養成する(看護行政研究会,2004)ことを求めている。これは,社会の変化に伴い,国民のニードが多様化し,高度化・複雑化した保健医療に対応可能な能力をもつ看護職者を求めている(看護行政研究会,2004)ことを示しているといえる。また同時に,看護師など専門家の実践が,単純に技術的合理性で片づけられない複雑さ,不確実さ,不安定さ,個別性を内包している(田村,2007)ことを示している。これら社会的ニーズに対応するためには,看護学教育を専門職の基礎教育として行なうことが重要である(厚生労働省,2002)。こうした背景から,看護学教育では学生の育成により一層の関心が高まっている(厚生労働省,2002)。
文部科学省の「看護教育の在り方に関する検討会」の報告書では,看護基礎教育の課題として,看護実践能力の向上と育成を掲げている(石井,2004)。そして卒業時到達目標とした看護実践能力の構成として次の5つを示している。①ヒューマンの基本に関する実践能力,②看護の計画的な展開能力,③特定の健康問題をもつ人への実践能力,④ケア環境とチーム体制整備能力,⑤実践のなかで研鑽する基本能力。
看護学教育の中核となるのは,臨地実習など現場における看護実践である(津田・前田,2006)。看護学教育は,看護実践を臨地実習などで「経験」し(Gaberson & Oermann, 2002),それらを展開する基盤として看護過程という考え方・思考(田村,2007)をもっている。リフレクションは,このようなことを背景に,専門職として求められる実践力を育成させる教授-学習方法(田村・藤原・中田・森下・津田,2002)と考えられるようになり,近年,看護実践の効果的な学習を可能にするツールの1つとして注目(Burns & Bulman, 2000/2005)されはじめた。
しかし,欧米におけるリフレクションの看護教育への浸透に比べ,わが国での広がりはまだ小さい。その理由の1つに,リフレクションの定義の多様性があるといえる。そして,リフレクションが看護実践力を高める学習方法の1つであるとする実証研究がいまだ十分に行なわれていないことが,最も重要な理由であるといえる。
そこで本稿では,わが国におけるリフレクション研究の動向を概観することとしたい。リフレクション研究の動向を概観する上では,対象別に分類すると理解がしやすい。それに沿って,各対象における要点を述べていくこととする。
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