連載 先端生命科学と看護のキアズマ・1
「こころ」の働きと生命科学
佐藤 聡
1
,
近藤 麻理
2
1University of Cambridge, Centre for Protein Engineering
2岡山大学医学部保健学科
pp.67-73
発行日 2006年2月1日
Published Date 2006/2/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1681100173
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
看護学領域では,長年にわたって人々の生活のQOLが向上するための研究が多く行なわれてきました。そのために学際的なアプローチがなされ,大きな成果をあげています。もちろん現在も,看護学独自の,あるいは多様な分野からの協力を得ながらの試みは続いています。しかし,生命科学分野についてはどうでしょうか。少なくとも分子生物学は,看護学領域においては,まだまだ学問として認知されているとはいいがたい現状があります。分子生物学は,遺伝学,生化学,細菌学,化学などの既存の学問を基盤として生まれた,生命活動の多様性と普遍性を,分子レベルで明らかにしていくという新しい学問です。生命科学は,医学研究だけのものではありません。例えば,考古学,文化人類学,心理学などの分野では,いち早く,遺伝子などの生命科学の手法を取り入れ,新しい研究の地平を開拓しているのです。
このような時代のなかで,看護学は,生命科学的手法を用いるのには適さない学問なのでしょうか。新たな看護研究の創造に,生命科学分野の発想やアプローチを用いることは不可能なのでしょうか。看護学は,複雑極まりない社会のなかで生きている人間を,包括的に研究する学問であると考えられています。その一方で,生命科学は,その背後に唯物論,機械論的な考え方があり,伝統的な看護の人間観とは一見対立するようにもみえるのです。
Copyright © 2006, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.