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はじめに
AADE(米国糖尿病教育者協会American Association of Diabetes Educators)では,糖尿病教育の効果をアウトカムとして明確に示すために,「全米糖尿病教育アウトカムシステム」の最終報告を発表し,糖尿病自己管理アセスメントツール(Diabetes Self-Management Assessment Report Tool : D-SMART)を開発している。それは,共通の視点で対象の変化を捉えることで糖尿病教育の効果を明確にしようとしたものだといえる。
日本では,糖尿病教育・看護の効果をどういう視点で捉えるかは,医療者それぞれの立場で見解に相違があり,コンセンサスは得られていない。そのなかで教育・看護の効果として捉えられる対象の変化が過小評価されたり,変化が見過ごされたりしている現状があることを考えると,アウトカム評価の視点を明確にしていく必要があるといえる。
しかし,その一方でAADEで開発されたD-SMARTのように,1つのアセスメントツールですべての糖尿病患者の自己管理を評価するということでの限界もある。例えば,自己管理行動を評価する項目として「決められた量より食べ過ぎてしまうことがあるか」という項目など,一般的に糖尿病ではエネルギーや脂質の過剰摂取に注目した項目設定となるが,腎症を合併している場合では蛋白制限が加わることでエネルギーの摂取が難しくなっている場合もあり,過剰摂取だけでなく摂取不足にも注意を向けなければならなくなる。このように,合併症の有無など身体状況の多様さ,また小児から高齢者まで年齢層も幅広く,さらには個々の生活環境も千差万別であるため,その状況によって自己管理のありようも多様であることが,共通項目で評価しようとする時の限界となるといえよう。それを考慮して評価項目を選定しようとした時,すべての糖尿病患者に共通する項目となるとその項目はかなり限定されてしまうであろうし,逆にすべての人の状況を盛り込んだ項目となると項目数が膨大になり,ツールとして実践のなかで活用するのは現実問題,難しくなるだろう。
だからといって,糖尿病教育・看護の効果指標を明確に示すことをあきらめてしまっては,現状で抱える問題を打破することはできない。アウトカム指標の意義と限界を知りつつ,日本の現状に合ったよりよいものを作成していけるよう,十分検討を重ねていくことが必要である。
そこで筆者らは,糖尿病患者として共通のアウトカム指標は必要であるが,それに加えて,対象に応じて必要な項目でアウトカムを示すことはできないかと考えた。対象に応じて必要な項目といっても,あまり細分化されてしまうと全体でのアウトカム評価に活用しづらくなるであろうし,細分化すると1人の人でもいくつかの特性が重複し,回答する項目が膨大になってしまう可能性があるので,中心的なものに限定する必要はあるだろう。そのため,共通項目で測定することの限界をすべて払拭できるものになるとはいえないが,共通項目だけで評価することによって限定されていた評価の幅を広げたり,画一的だった項目を少しでも柔軟にすることができ,より対象に適合した評価ができるのではないだろうか。
本稿では,千葉大学看護学部老人看護学教育研究分野で過去に取り組まれた糖尿病患者を対象とした修士論文,博士論文を繙き,そのなかで対象の特性としてどのような点を取り上げる必要があるか,また,取り上げた対象の特性のなかでどのような項目をアウトカムとして捉える必要があるか,研究結果をもとに検討し,今後のアウトカム指標作成の足がかりとしたい。
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