連載 宝物,教えてください・71
安産のまじない 熊の手
カーコスキー 朱美
1
1医療法人社団安津会 繭のいえ助産院
pp.3
発行日 2022年2月25日
Published Date 2022/2/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1665201962
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17年ほど前,私が助産師であると知った民俗学研究家の八木洋行氏から,「あんたに渡すために俺はこれを受け取ったんだろう」と金唐革紙の木箱を渡された。木箱には,安産のまじないに使われたという本物の「熊の右手」と1人の老婆の写真が収まっていた。
写真は,熊の手の元の持ち主であった産婆の小塩すずさん。すずさんは,天竜川の上流,静岡県浜松市にある水窪町(現天竜区)という小さな集落で生まれ育ち,結婚して一生を終えた。やはり産婆であった母親から熊の手を受け継いだが,使い方は秘儀であった。「何やらブツブツとまじないを唱え,産婦さんのおなかを3回,熊の手で撫でていた」とは長男の勉さんの弁である。そのまじないの言葉は,野本寛一著『庶民列伝』(白水社)に記されている。「どうか無事によい子が産まれますように南無阿弥陀仏阿毘羅吽欠蘇婆詞」。
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