連載 バルナバクリニック発 ぶつぶつ通信・128
子どもの病気に無関心な親
冨田 江里子
1
1バルナバクリニック(フィリピン)
pp.350-351
発行日 2015年4月25日
Published Date 2015/4/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1665200185
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動脈管開存症のダニエラ
2014年に手術資金援助をお願いした動脈管開存症のダニエラ(11歳女児)の親は,私のなかでは“ひどい親”の分類に入る。ダニエラの胸はすでに心肥大で変形しており,赤ちゃんの頃からくり返す喘息もあった。奇形のせいで成長できず,身体は同年代の子どもより一回り小さい。すぐに息が苦しくなる状態が毎日のダニエラの姿なので,両親は「神様がこの子に心奇形という試練を与えた。だから死んでいくのはしょうがない」と,苦しむ姿を見ても何もケアをしていなかった(苦しいのが日常だからダニエラも慣れている)。結局,ダニエラ自身が「生きたいの,助けて」と訴えてきて,両親の同意を得て支援に進んだのだが,両親が非協力的なため,資金が集まっても喘息がコントロールできずに手術に進めないでいた。
彼女の喘息の誘因は生活環境にあった。セメント造りの窓のない六畳一間の家に,家族7人以上が重なり合うようにして眠る。家族の室内での喫煙,家と家の間の狭い日の射さない路地での炭や薪を使っての煮炊き,その着火剤として大量に使われるごみのビニール袋などの有毒な煙がそこら中に漂っている。このような日常の空気汚染が喘息の誘因だった。頻回に起きる肺炎を併発している時のダニエラのPO2は84%。調子がよいという時でも94%を上がらない。それでもこれまで放置されていた心臓・喘息に対する内服治療が行なわれているので,本人は楽らしい。内服していても,日々,動脈管の拡大は続き心肥大を起こし,肺高血圧が進んでいく。喘息があると麻酔がかけられない。1日も早く喘息をコントロールして,手術にコマを進めないといけない状況なのに,両親はまったく関心がない。
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