特集 妊娠期の新・臨床栄養―成人病は胎児期につくられるか
第2回FOAD国際学会(英国ブライトン)参加記
福岡 秀興
1
1東京大学大学院医学系研究科国際生物医科学
pp.754-757
発行日 2003年9月1日
Published Date 2003/9/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1665100590
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21世紀最大の仮説
成人病胎児期発症説(FOAD:fetal origins of adult disease,以下Barker説と記す)は,約15年前からMRC環境疫学部門David Barker氏により提唱されてきた医学仮説であり,これは21世紀最大の医学仮説であるとも言われている。即ち,胎児期という発達上,極めて重要なcritical periods(臨界期)に低栄養状態にさらされることにより,更に出生後短時間の間に身体がキャッチアップした(即ち「小さく産んで大きく育てた」)場合には,遺伝子発現や物質代謝および視床下部―下垂体―副腎のホルモン相関が正常とは異なった状態にセッティングされてしまい,生活習慣病と言われている高血圧症,動脈硬化症,2型糖尿病,高脂血症,骨粗鬆症,metabolic syndromeを発症するリスクが高くなるという仮説である。成人病は生活習慣病であると言われながら,同じ生活習慣のなかでも成人病を発症し易い人と,しない人が存在する。この差は,成人病を発症し易い遺伝子構造を有しているか否かということに加え,胎児期の環境因子の影響という2点が強く関与しているのである。
しかし日本は成人病を生活習慣病と名づけてしまった。そのことで疾患の本体を大きく見誤る風潮を作ってしまい,この名称は後世に大きな禍根を残してしまったと私は考えている。即ちこの成人病胎児期発症説は成人病の環境因子としての胎児期の重要性を示すものである。
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