連載 今月のニュース診断
健康増進法(2003)と国民体力法(1940)
加藤 秀一
1
1明治学院大学社会学部社会学・性現象論
pp.540-541
発行日 2003年7月1日
Published Date 2003/7/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1665100549
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嫌煙権の擁護
10歳の頃,外見だけ無駄に年をくったエセ大人たちの存在に気づいた。子供と見て「どうせ買わねえんだろう」と罵声をあびせる電器店の店員や,映画館で僕の頭の横に足を乗せてきた後部座席の男。基礎学力に欠け,くだらない頭髪検査に血道を上げる中学校の理科教師。列挙していけばキリがない。そうした連中への深い軽蔑は年をとっても僕のなかで決して朽ちることはない。エセ大人の保身のための「長幼の序」なる文化が崩壊しつつあるのは良いことだ。人は年齢や性別や出自ではなく,その見識や人格や能力のみによって評価されるべきだ。
とりわけマナーの悪い喫煙者たちには何度も傷つけられた。小学生だったある日,池袋駅の雑踏のなかで僕は左手の甲に激しい痛みを感じ,見ると火傷をしていた。どうやら煙草の火を押しつけられたらしい。辺りを見回すと,指に火のついた煙草を挟んだ若い男が若い女と談笑しながら遠ざかっていくところだった。男は自分が子供に怪我をさせたことに気が付いてさえいなかった。そういう他者への感受性を一切欠いた人間が存在するという事実そのものが,まだ幼かった僕を打ちのめした。
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