明日の地方衛生研究所
社会防衛と個人防衛の接点
井上 博雄
1
Hiroo INOUYE
1
1愛媛県立衛生研究所
pp.410-414
発行日 1989年6月15日
Published Date 1989/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401207954
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■はじめに
昭和23年の厚生省3局長通達に基づいて設置されて以来,地方衛生研究所(以下,地研)はそれぞれの時代の要請に応じた役割を果たしてきた.象徴的に見れば,戦後の混乱による伝染病流行とその後の復興と発展による高度経済成長に伴う環境汚染の時代を経験し,公衆衛生行政の科学的技術的中核としての責務を果たしてきた.つまり,現実的認識に基づいた時代的,社会的要請が即,地研活動のモチベーションとなり得た時代であり,その対象は主として環境要因,および病原要因の分野に絞られていた.その結果として,地研は細菌,ウイルスなどの病原微生物,臨床病理,環境衛生,食品衛生,および薬事衛生に渡る幅広い分野での分析能力を備えてきた.
さて,わが国も世界有数の経済大国,長寿国となった現在,保健医療をめぐる環境の変化に伴い,新たな課題が生じてきた.まず,人口構造の高齢化,それに伴う疾病構造の変化,バイオテクノロジーなどの研究技術革新,国際化など,新たに派生した課題に対応すべく保健医療の変革が求められ,現在,保健医療政策の大きな底流として,「国民健康づくり」政策が進行している.その中では,高齢化と誕生以来の長いライフスタイルの過程で生じる成人病がクローズアップされ,「病気と共生する健康」つまり一病息災の健康概念が提唱され,さらに国民一人一人が自らの健康づくり,健康増進を自覚する重要性が説かれている.
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