連載 バルナバクリニック発 ぶつぶつ通信・26
私の選択
冨田 江里子
1
1St. Barnabas Maternity Clinic
pp.450-451
発行日 2006年5月1日
Published Date 2006/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1665100115
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バルナバクリニックにやって来る人びと
クリニックにはお産以外の患者もたくさん来る。といっても近くに病院がないわけではない。病院で診察を受けるには支払い能力があることが絶対条件なのだ。それらがない人々が,何らかの救いを期待して私のクリニックを訪れる。クリニックに白髪で顔色の悪いやせ衰えた女性が来た。老女に見えたが年齢は51歳。「水が溜まってしんどい…」と,ぽつんと話す。彼女の声はか弱く,彼女がだぶついた服をめくりあげると私は言葉を失った。多胎妊娠?と思えるほど脹れきったお腹。腹水でできた妊娠線(?)がピンク色に光っている。
左の乳房は原形を留めずガチガチに萎縮して大胸筋に食い込むように張り付いていた。乳房の異常に気づき病院へ行ったのが2年前。「直ぐに手術を」と言われたが,日々の食事すら満足にできない彼らに50万円以上の手術費が捻出できる訳もなく,彼女の乳房は硬化を続けた。それが10日ほど前から急に腹水が溜まり始め,あっという間にここまで膨れ上がったという。
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