連載 バルナバクリニック発 ぶつぶつ通信・87
中絶を選択したという責任が女性に残す傷
冨田 江里子
1
1St. Barnabas Maternity Center
pp.648-649
発行日 2011年7月25日
Published Date 2011/7/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1665101950
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生きる上で人々はさまざまな選択を迫られる。妊娠も残念ながらその選択の対象になることがある。
ある日,なじみの患者であるドン(56歳)がいつになく暗い表情で診察にやってきた。ドンの娘は巡回診療の患者(脊髄損傷で胸から下が麻痺,排泄コントロール不全からの感染,外陰部壊疽など)で,私はたびたび彼女の家を訪問していた。そのため,ドンの家庭の健康問題(高校生の孫の度重なる妊娠,麻薬中毒,中絶相談,出産などから孫の風邪にいたるまで)にいくつかかかわっていた。まじめに働いている者がいない,その家全体がかもし出す荒廃した雰囲気に負けず,何とかよい方向へ導こうと努力している若いおばあちゃんのドンに,私は何度も勇気をもらい,あきらめないことの大切さを学んでいた。
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