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はじめに
日本政府は少子化問題を国の未来にかかわる重要な問題として,平成15年9月に少子化社会対策基本法を施行し,国を挙げてこの問題に取り組んでいます。法律にうたうところの「妊産婦及び乳幼児に対する健康診査,保健指導等の母子保健サービスの提供に係る体制の整備,妊産婦及び乳幼児に対し良質かつ適切な医療(助産を含む。)が提供される体制の整備等安心して子どもを生み,育てることができる母子保健医療体制の充実」を実現するために,周産期医療にかかわる我々の責任は,ますます大きくなりました。
そのような社会情勢のなか,今回,東京の多摩地区にあるファウンズ産婦人科病院という産婦人科専門病院と,周辺地域の助産師が,よりよい医療連携のための新しい取り組みを始めました。この取り組みのねらいは,快適性と安全性を両立し安心できる分娩管理をめざし,周産期医療の質を向上させ,国の少子化対策に応え,多くの妊産婦にその成果を享受してもらうことにあります。快適な分娩管理について,多くのノウハウを持つ助産所や出張開業助産師と,安全な分娩管理のためのスタッフと設備を持つ病院とが,円滑で効率的な医療連携を構築し,快適で安全な分娩をめざしています。
私が杏林大学医学部付属病院の総合周産期母子医療センターに勤務していた頃に,数多くの母体搬送例を経験したことからこの取り組みは始まります。そして,地域の助産師と交流するうちに,開業助産師とのチームづくりが自然発生的に生まれました。東京都の周産期事業により,母体搬送・新生児搬送のシステムは,東京都は全国でも有数のレベルに整備されてきました。助産院からの母体搬送も例外ではなく,周産期センターに搬送されるようになりました。
当時1990年代の後半は,診療所の多くが分娩を取りやめるようになってきた時期に当たります。いままで,助産師と嘱託医の間で実行されていた患者の移送が,突然の電話連絡で,遠距離の周産期センターにも運ばれるようになりました。当初は,診療情報提供書のような紹介状などを携えてくる助産所は少なく,患者の病態を知る情報の伝達・収集に苦労しました。また,「エプロン姿の助産師」はいきなり周産期センターに運ばれて,初対面の白衣の医師や看護師,助産師に囲まれることになったのです。何をどこからどのように説明したらよいのか,産婦を送る側の助産師も苦労したものと思います。
そのような経験から,周産期センターの研修活動などを通じて,助産院や出張助産所からの母体搬送・新生児搬送が円滑に実行できるようにと,産婦を送る側の助産師と,受け入れ側の病院との双方の取り組みが始まりました。基本的に緊急母体搬送に備えた併診と,医療連携を勉強する「ハンズの会」が成立したのです。
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