- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
京都市東山区の古川町商店街では,自然発生的に形成された高齢者の集う場の構成要素に関する京都大学大学院研究科の研究の知見に依拠して,「すこやかサロン」が設置された。高齢化率の高い市街地の一角に,高齢者や地域の人々が気軽に立ち寄り,交流の場や健康づくりのために利用するスペースが活用され,「すこやか健康講座」の開催や,「すこやかサロン体操」の普及など,さまざまなイベントが開催されるようになった。
はじめに
長寿社会とよばれる現在,人間関係の希薄さがもたらす高齢者のさまざまな社会問題が指摘されている。とくに都市部では転出入が著しく,都市中心部では地価や物価が高いことから,一部のUターン者が見られるものの人口空洞化が起こり,核家族化が進み高齢者夫婦のみ世帯や高齢者独居世帯の占める割合が増加している。
このような都市部で過疎化した地域では,従来は人のつながりによって成り立っていた各種地域行事が実施困難になり,地域交流や世代間交流が少なくなるため,人々のつながりは一層希薄になる。都市部におけるソーシャルキャピタルの崩壊は母子や高齢者の孤立をもたらし,孤立化が心身の健康に及ぼす影響が懸念されている。とくに年齢とともに心身機能が低下する高齢者は,地域のネットワークが崩壊し人間関係が希薄になった都市部において最も孤立しやすく,健康への影響を受けやすい人々と言えよう。
私たちは,高齢者の健康寿命を延伸し,生活の質を維持するためには,都市部高齢者が孤立した状態にならないために,人間関係の再生を基盤にした地域ネットワークの再構築が必要であると考える。超高齢化社会では崩壊しつつある人のつながりを維持再生し,ソーシャルキャピタル醸成に向けて新しい仕組みつくりが今まさに求められている。
ソーシャルキャピタルが脆弱化した都市地域で人のつながりを再生することは,高齢者にとって暮らしやすい街を再生することであり,それは都市の再生をもたらすものである。そこで,都市部高齢者の孤立がもたらす健康問題を予防するために,自立支援と予防的健康支援のための交流の場「すこやかサロン」を高齢者が通い慣れた商店街に設置し,ソーシャルキャピタルの醸成と健康で安全・安心な街づくりの拠点として活用することを試みたいと考えた。
2005年9月,商店街の空き店舗に地域高齢者の介護予防を目的として「古川町商店街すこやかサロン」を設置した。京都市東山区粟田学区という小地域における高齢者の心身の機能維持と住民との協働による健康づくりを目的とした予防的健康支援システムを作るために活動を始めたのである。
「すこやかサロン」は京都大学大学院研究科人間健康科学系専攻予防看護学分野の教員と大学院生がスタッフとなり,①閉じこもりの予防(商店街を拠点としたホスピタリティあふれる交流と憩いの場の提供),②すこやかな老いの実現(サロンを活用した健康生活なんでも相談の場を提供,体操の実施),③健康な街づくり(住民参加による安全・安心な街づくり,古川町商店振興組合との協働)を目標に活動している。
Copyright © 2010, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.