連載 「健康格差社会」への処方箋・11
マクロレベルにおける対策―社会政策
近藤 克則
1
1日本福祉大学社会福祉学部
pp.728-734
発行日 2007年8月10日
Published Date 2007/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1664100834
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健康は,どこまで自己責任で決められるのであろうか。たとえば喫煙は本人の意志抜きでは語れないが,それもタバコ代(にかける税金)に強い影響を受けることが報じられた(2007年5月22日各紙)。健康被害を訴えたり,路上喫煙への罰金を科したりしてもあまり効果がないが,タバコ代を北欧並みに1箱1000円にすれば,ニコチン依存度が高い人ですら,9割の人が禁煙を考えると回答したという。つまり,同じ個人でも暮らす国(のタバコ代)によって喫煙するかどうか違うのである。
また,仕事にまつわるストレスや低所得は不健康につながる。これも働く人と企業努力で,すべて解決可能なのであろうか。たとえば,低賃金のワーキングプア(働く貧困層)1)の人たちは,まじめに働いても収入が生活保護の水準にすら達しないで,「明日がみえない」ストレスにさらされている。しかし,人件費を削って競争力を高めなければ,企業自らがM&A(吸収合併)されてしまう。そのような厳しい市場環境の下で,法定の最低賃金よりも高い額を喜んで支払う企業がどれほどあるであろうか。この例でもまた,同じ能力の個人や企業でも,国の定める最低賃金によって影響を受けるのである。
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