連載 手をつないで歩こう・1【新連載】
さくら道
渡辺 真琴
pp.320-324
発行日 2006年4月1日
Published Date 2006/4/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1664100077
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「しあわせか?」と聞かれたら,今,僕は戸惑いながらも,「しあわせですよ」と答えるだろう。
でも,会社へ向かう途中の桜並木が満開の花をつけるこの季節になると,僕は,あの日に妻の頬をつたった最後の涙を,どうしても思い出してしまう。青空の下,さわさわと春風にゆれるこの道の桜は,幻想的なまでに美しく,その淡く儚い優しさは,僕の中にあの日の切ない残滓を蘇らせてしまうのだった。
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