特別寄稿
19世紀のダブリンからの報告—現代ホスピスのバックグラウントを知るために・4(最終回)
岡村 昭彦
pp.687-692
発行日 1982年11月25日
Published Date 1982/11/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663907737
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なぜ19世紀のイギリスの植民地アイルランドに≪近代ホスピス≫は誕生したのか?
世界で最初の≪近代ホスピス≫が,末期患者の死のケアを目的として,植民地として苦しみ続けるアイルランドの主都ダブリンに誕生したのは,19世紀も終わりに近い1879年12月9日のことでした.明治12年,日本では自由民権運動が,民衆の力でたくましく歩みはじめていたときです.この当時の明治政府の資料には,アイルランドの‘爆弾党’と呼び,海の向こうの植民地解放運動が自由民権運動と結びつかぬよう,細心の注意を払っている点に注目する必要があります.
東洋の英国を目ざす明治政権にとり,アイルランドこそは,危険きわまりない植民地のやからであり,この考えはそのまま日本の朝鮮支配のお手本となっていきます.ですから,明治12年12月9日にアイルランドに生まれた≪近代ホスピス≫のことなどが日本に紹介されるはずもなく,今日でも,ホスピスは英国からはじまったと本当に思いこんでいる人や,クイズ並みの知識として19世紀のアイルランドにホスピスがあったと,ちょっぴりふれるホスピス運動家がいるくらいです.
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