ルポルタージュ 女と靴下・16
茨(いばら)の道を踏みこえて
鈴木 俊作
pp.775-779
発行日 1979年12月25日
Published Date 1979/12/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663907395
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寺崎駒江22歳.青森県むつ市に生まれた.むつ市は,振り上げたまさかりのような形をした下北半島の,ちょうど斧と柄の継ぎ目のところにある.人口3万の小都市である,本州の最北端だから降雪量が多い.最近は暖冬つづきで数メートルの積雪を見ることは数年に1度あるかないかだが,駒江が小さいころは冬になると窓まで雪の中にすっぽり包まれてしまうこともよくあった.
冬は子どもたちの天下だ.屋根の雪を掻き落として町はどこでも雪の小出ができる.火で焙(あぶ)ってカーブをつけた竹製の下駄スキーを履いて,子どもたちは1日中遊びほうける.下駄スキーを持たない子どもはビニール袋を履いて雪の上を滑る.その格好は坂道を疾駆する雪上スケートといったあんばいである.父親たちが出稼ぎに出て町から姿を消してしまうので,どこの家でも母親が中心になる.畑仕事から解放された母親たちは喜んで子どもの相手になってくれる.昼間はかまくらを作ったり,迷い道と呼ぶ追いかけっこで遊び暮らした子どもたちは,夜になるといろりを囲んで母親からお手玉を習ったり綾とりをしたり,年よりの語る昔話に眠い瞼をこすりながら耳を傾ける.
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