新カリキュラム講座 一般教養課目・3
哲学編I
高橋 憲一
1
1上智大学
pp.52-55
発行日 1967年7月1日
Published Date 1967/7/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663905850
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教養課目としての哲学
哲学専攻の学生を対象とする専門教育としての哲学でなしに,一般教育としての哲学は,わが国でも意外に長い歴史をもっている。特にこれは旧制の高等学校と大学予科の文科において—同じ理科の心理学,論理学と並行して—必修課目であったが,これらの学校が各地に増設された大正年間には,教養に対する世間一般の要求につれて,哲学に対する関心もたかまり,今でいうなら,静かなブームとでもいえるものがあった。これらの学校での哲学で,どのようなことが教えられていたかといえば,それはかなりまちまちであったようである。西田幾多郎の<善の研究>は明治44年(1911年)に初版を出しているが,周知のとおり,その内容は博士が金沢の四高で行った講義であり,これに対し戦後公刊された岩元禎の一高での<哲学概論>はかなり専門的なギリシャ哲学史で,教師が思い思いに教課内容を定めていたことを窺わせるのである。大正の中期からは,わが国にもドイツの新カント学派の影響が現われ始め,やがて認識論と価値論以外に哲学はないという考え方が普及する。<認識論>と題する書物がつぎつぎに出され,なかには数十版に達したものもあるという盛況を見ると,高校などの哲学の内容も,大体においてかなり認識論に偏したものになっていたであろうことが想像される。
昭和の中期にはいると,これが少しずつ変化してくる。
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