教育のひろば
社会性
松原 治郎
1
1東京大学教育学部
pp.5
発行日 1967年3月1日
Published Date 1967/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663905779
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近頃,街を歩いていて,あるいは教壇に立っていて,若い人たちの「社会性」のなさということが気になって仕方がない。もちろん,かくいう私だって,中学生の頃やあるいは大学生になってまでも,ずいぶんいたずらもしたし,さぼりもしたし,先生に失礼なこともした覚えがある。ただ,それと今の若い人や学生さんの言動とは,どうも少し違うような気がするのである。
たとえば,ついこのあいだも,東大での講義の時間に,しきりにパチンパチンと爪を切っている学生がある。気になって仕方がなかったが,注意するのも大人げないのでやめておいた。その時気づいたのはこういうことだった。もしそれと同じことを私がやれば,「どうもこいつの講義は面白くない。いやがらせに,ひとつ爪でも切ってみせてやろう。」こういった動機からやってみせるかもしれない。ところが,その学生は実はそうではないらしい。いつも真面目な学生だし,現にその時間中だって,大切なところにくると,爪を切る手をとめてノートをとる。つまり爪を受講中に切ることが,良い悪いか,相手にどんな印象を与えるか,結局は自分にとって得か損か,そういうことの判断外の行為として,ただ切りたいから切っているのである。
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