連載 看護教育の理念を求めて
看護教育にのぞむ
早坂 泰次郎
1
1立教大学
pp.6-9
発行日 1967年1月1日
Published Date 1967/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663905749
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現行医療制度が生んだ不祥事件
新聞をにぎわせ,人びとを衝撃の波で包んだ,“千葉大学医学部事件”もしくは“鈴木医師事件”からあまり日もたたないころ,私は,かねて心理学の講義を担当していたある高等看護学院で,この事件をテーマとして学生たちにディスカッションをさせてみた。
学生たちの主張は,ほぼ次の二つにつきるようであった。一つは,鈴木医師は異常性格者だったのだろうということ。もう一つは,この事件は現在の医療制度のゆがみの産物だ,ということであった。後者の主張は,次のようなことを骨子としていた。高度に発達した医学の知識や技術をしっかりと身につけ,それを基礎としてしっかりした医療をおこないうるために,大学の研究室での,長期にわたる研究が必要になる。他の職業ならば,30才にもなれば,女房子どもをかゝえて立派に養ってゆけるだけの安定が得られるのに現在の医療制度の下にあっては,医師はきびしい生活にたえねばならない。鈴木という男も下積み生活に甘んじ,アルバイトにたよって生活をやっと支えていた。その無理が彼の生きかたをゆがめ,あせりと欲求不満がこうした非常識な行動に駆り立てたのだろう。
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